出会いはアコーディオンノート

山櫻さんとの出会いは色々な偶然が重なって生まれました。
それは、私がノートを使っている時でした。仕事で何か考える時には、いつもノートに向かって書いていきます。その時は、いつもよりも少し長い時間かけてノートに向かっていました。
1ページでは書ききれず2ページ、3ページとどんどん書き続けていました。一通り考えつくし、さぁそれらを検討してみようと思い、ページをめくっていきました。そもそもページをめくるのも面倒くさいですし、めくるごとに頭に入ってくる情報は途切れてしまいます。それが不便でなりませんでした。全ての情報をいっぺんに頭に入れられないだろうかと思いました。
・・・そしてフト気づいたのです。
もしノートの紙面がアコーディオンのようにじゃばらになっていたらいいじゃないかと。
そこで、ノートをいったん脇に寄せて、ためしにアマゾンのサイトを開きキーボードで「アコーディオンノート」と検索してみました。すると、あったのです。「アコーディオンノート」という商品が。すぐに注文してみました。
届いたアコーディオンノートを使ってみると、書いたものを好きなだけ広げて一望できてとても心地よく、考えがスムーズに進むようになりました。このノートは大きく広く考えるのにいいと思い、私のウェブpen-info で紹介しました。
それを偶然アコーディオンノートの企画を担当された山櫻の大場さんが見ていてくれていたのです。そして、後日私にコンタクトをしてくれました。お会いしてお聞きしてみると、アコーディオンノートの企画チームの間では当初より pen-info で取り上げられたいねと話していてくれたのだそうです。
その狙いどおり私はアコーディオンノートを使い、ウェブでも紹介した訳です。私たちは出会うべくして出会ったのだと思いました。

アドバイザーのはずがディレクターに

それがきっかけとなって山櫻 大場さんとの交流がはじまりました。
「+lab(プラスラボ®)」は、アコーディオンノート以外はどちらかと言うと、女性向けのアイテムが中心です。ブランド5周年を迎えるにあたって男性向けの手紙用品を作る予定だというお話をお伺いしました。
試作したものを持って私の事務所を訪ねてこられました。拝見してみると、私の目には女性らしらがまだ残っているように感じました。私なら、こういうものがいいですねと色々とお話をしました。ちなみに、その時のアイデアがほぼ今回の「伝書紙」では採用されています。
実は、この打ち合わせの段階では、仕事として私が商品ディレクションをするという話しはまだなっていませんでした。当然、山櫻さんの社内でもその話しは通っていませんでした。
大場さんも私もすっかり乗り気になって、ぜひ商品化したいですねと話しあっていました。その後、大場さんの方ですぐに社内の承認を取り付けてくださり、「伝書紙」でのコラボが正式にスタートすることになったのです。

商品化への険しい道のり ~紙選び~

まず、使用する紙の問題が立ちはだかりました。
私の方でこんな紙がいいというイメージが当初からありました。従来の一筆箋とは違う厚くハリのある紙や、逆に半透明の薄い紙など個性あふれる紙を揃え、色々な書き応えが楽しめるようと考えていました。
しかし、山櫻さんにとってそうした紙は、これまでの名刺や封筒づくりではあまり使ったことのない紙ばかりでした。しかも、それらの紙のコストも結構高いものばかりで、商品化をしたら価格が軽く1,000円は超えてしまうものになってしまうということでした。そこから、紙探しが始まりました。
ふだんあまり付き合いのない紙商社さんにも色々と問い合わせされたそうです。色々と調べていただくうちに、書籍や図録などで使われる紙や包装用の紙などが候補として上がってきました。そうして幅広い分野の個性的な紙が選ばれていきました。

商品化への険しい道のり ~活版と抜き加工~

紙の目途がたち、次に加工です。私は今回の「伝書紙」では、ハリのある紙には活版のような凹凸だけで色を付けずに罫線を表現したいという強い希望がありました。シンプルで男性にも使いやすく(もちろん女性にも)、そしてなにより書いた文字が最も映えるようにしたかったからです。
しかし、活版というものも、またコストのかかるものだったのです。そこで、山櫻さんにまた色々と知恵を絞っていただきました。山櫻さんは名刺やカード、封筒といったものの製造を得意としています。紙加工の職人の方々も交えて相談して頂き、ふだんよく使っている「抜き加工」がよいのではないかということになったのです。
「抜き加工」とは、封筒やカードなどをその形に抜きながら折り目を付ける時などによく使われているものだそうです。折り目ではありますが、拡げてみてみると紙面に凹凸があるのが特長です。その方法を使って「伝書紙」の凹凸罫線を全て加工していただきました。
この「抜き加工」は、紙面を押し込んで凹ませることはできても、逆に浮き上がらせることは難しいという課題がありました。「伝書紙」の中には横罫線の各行が凹んでいたり、浮かび上がっていたりしているものがあります。これも職人の方々の創意工夫によって解決し商品化にこぎつけました。
このように多くの方々の知恵や工夫そして経験によって「伝書紙」は、商品としてこの世に生まれました。
私は紙加工において「これはできて」、「これはできない」ということがあまりわかっていませんでした。それがかえってよかったのかもしれません。できなということがわからなかったからこそ、これまでの常識にとらわれないものが生み出せたのではないのかもしれません。もちろん、そうした私の常識外れのアイデアをしっかりと受けとめて下さった職人の方々がいてくださったからです。
いい意味での化学反応によって生まれたのです。

土橋正(つちはし ただし)
ステーショナリーディレクター

文具の展示会「ISOT」の事務局を経て、土橋正事務所を設立。文具の商品プロデュース、PRのコンサルティング、文具売り場のディレクションを行っている。文具ウェブマガジン「pen-info」では、文具コラムをはじめ、海外の文具展示会レポートなど様々な情報を発信している。新聞、雑誌などの文具特集にも多数参画。日本経済新聞社 新製品評価委員。オールアバウトのステーショナリーガイド
■著書:「暮らしの文房具」玄光社、「仕事文具」東洋経済新報社、「モノが少ないと快適に働ける」東洋経済新報社、「文具上手」東京書籍、「文具の流儀 ロングセラーとなりえた哲学」東京書籍、「仕事にすぐ効く 魔法の文房具」東京書籍、「やっぱり欲しい文房具」技術評論社。
■共著:「ステーショナリー ハック!」マガジンハウス、絵本「文房具のやすみじかん」 福音館書店


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